広報 あぐい
2009.02.15
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あぐいぶらり旅 〜鉄道沿線を歩く(2)〜

シリーズ 阿久比を歩く 94

 



目の高さの位置に見える線路



田園の間を走り抜ける電車

前回は南端からスタートを切り、阿久比駅まで歩いたので、駅から北上を続ける。

駅前周辺を歩く。阿久比駅は昭和58年7月に開業。毎日通勤、通学などで多くの方が利用する。平成18年4月には阿久比交番も駅前に移転し、この辺りは町の中心街として華やかさを増す。

今日は休日、電車に乗ってどこかへ行くのだろう。笑顔いっぱいの親子とすれ違う。「夕方に戻って来るときは、お父さんがあの子をおんぶしてると思うよ。大変だけど、その温もりを感じる瞬間がたまらないよ」と私が話し掛ける横で友人が軽くうなずく。

正面にオアシス大橋が曲線美しくアーチを掛ける。平成元年11月町の東西を結ぶ“夢の架け橋”として完成し、開通式には三笠宮寛仁親王・同妃信子殿下を招き、盛大に開通式が行われた。

「今まで黙ってましたけど、実は中学1年生のとき開通式に参加したんですよ。橋の上でベートーベンの『第九』をドイツ語で歌いました。まだ声変わりもしていない少年で、テノール担当でした」

友人がオアシス大橋の思い出を語る。町の歴史が変わる瞬間に友人が立ち会っていた衝撃的な事実を聞く。友人が目を閉じて『第九』を歌い始める。「♪〜〜〜♪」。相変わらずだ。まだテノールが担当できそうな甲高い歌声。少年時代に戻ったかのように堂々と歌い上げる彼に脱帽。

橋の下を抜け、しばらく歩く。後方から電車の近づく音が聞こえる。後ろを振り返る。オアシス大橋、阿久比川の堤防、広がる田園、電車が重なり合う場面は絵になる。素晴らしい光景を目に焼き付ける。

坂部駅が見えてきた。たわいもない会話を続ける。前方から電車がやってきた。左手、目の高さの位置に線路がある。地面の揺れが体全体に伝わってくる。電車が私たちの横を通過した瞬間、すごい風圧と音で会話がかき消されてしまう。「………」。「…………」。

電車が過ぎ去った後、「君、今どさくさに紛れてへんなこと言わなかった?」。「別に何も言ってませんよ」。友人の含みのある笑みが気になった。



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