広報 あぐい
2007.02.15
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あぐいぶらり旅 〜伝説の地を歩く(天白地蔵)〜

シリーズ 阿久比を歩く 46

 



正面奥の厨子に“天白地蔵”が安置されている


「『わしものう、耳が遠なったことがあったけど、天白地蔵(てんぱくじぞう)さんにお参りさしてもらったら、よう聞こえるようになった。おまはんも、柄杓(ひしゃく)の底に穴をあけたのを持って、安楽寺へ行ってお参りしたがええがの』。

おばあさんは大喜びで、早速新しい柄杓に穴をあけたのを1本と、大きな巾着(きんちゃく)にお供えの米を詰めて、安楽寺へ行きました。

和尚さんが地蔵堂の扉を開けて、お祈りをし、『さあ、その柄杓でようく耳をなでて、お地蔵様の前に置きなされ。きっとお地蔵様がかなえてくださるからな。1週間、毎日お参りに来なさるがいい』。

おばあさんは、毎日新しい柄杓を持って、7日間お参りしました。7日目に耳をなでると、柄杓の穴からスーッと風が入ってきたような気がしました。そしてそれからは、昔のように耳がよく聞こえるようになりました。『阿久比の昔話 天白地蔵』から」。

天白地蔵がまつられる安楽寺(板山)を訪れた。地蔵はその昔、福山川上流にあった地蔵池の堤に立っていた。大雨が降ると池の水があふれて福山川へ流れ込み川の堤防が切れた。地蔵は堤防が切れるたびに“天白”の地へたどり着く。村人たちは天白の川の堤に小さなお堂を作り、地蔵をまつる。その後は福山川の堤防も切れなくなる。村人は「天白地蔵」と呼び、耳の不自由な人が、穴の開いた柄杓を供えて祈ると耳が聞こえるようになったという話が伝えられる。

天白地蔵は明治6年から安楽寺でまつられている。境内西にある地蔵堂奥の厨子に納められ、姿を見ることができない。「一度だけ見ましたが、顔の形はなくなってしまい、見た目は木のかたまりで、言われなければお地蔵さんとは分かりません。穴の開いた柄杓を供えたのは、すくった水が通り抜けていくのと、耳がよく通るという意味が掛けてあったようです。今は柄杓を供えてお参りする人はいませんが、話を聞いて遠方から手を合わせに来る人がいますよ」。案内してくれたお庫裏さんが教えてくれた。

寺へ参拝に来ていた夫婦に声を掛ける。天白地蔵の存在を知らない2人に私たちがいわれを話す。「毎月お参りに来ますが、お地蔵さんにそんな不思議な力があるとは知りませんでした。少し耳が遠いおばあちゃんの知り合いがいるから今度教えてあげようかなあ」と奥さんが言葉を残してその場を離れて行った。

「おばあちゃん耳が聞こえるようになるといいですね」と友人が話し掛けてくる。「そうだね。ところで、君はお地蔵さんに向かい2回手を打って、お参りしていなかったか。神社と寺では参拝の仕方が違うぞ」と私が言う。「はずかしいですよね。穴の開いた柄杓があったら入りたいくらいです」。「それは無理。無理」。



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